日本インファントマッサージ協会  Japan Association of Infant Massage 

雑誌特別寄稿 保健婦雑誌第55巻第8号 1999年8月10日発行 医学書院


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特別寄稿 インファント・マッサージで深まる親子の絆
草間裕子
インファントマッサージの歴史

「インファントマッサージ」は日本人には耳慣れない、なじみの薄い言葉ですが、欧米では赤ちゃんに施すマッサージをインファントマッサージと呼んで、年間1万人以上もの親子が親しんでいます。この世界共通の意識を共有し、インファントマッサージをより多くの方に知っていただくためにも、あえて日本語の乳幼児とは訳さず、英語のまま紹介することにしました。

インファントマッサージは、インドで看護婦をしていたアメリカ人女性ヴィマラ・マクルアーによって20年も前に考案、開発されてきた手法です。

インドでは古くから、子供が生まれるとその家のお婆さんが赤ちゃんにマッサージをする風習があり、それが貧困の中にあっても子供たちがすくすく育つ要因ではないかと考えたヴィマラは、この理念をアメリカに持ち帰り、インド伝統のマッサージ法に加えリフレクソロジー、ヨガ、スウェーデンマッサージなどの手法を取り入れたインファントマッサージを、新しい育児法として提唱しました。
まず、彼女は自分の赤ん坊をマッサージすることで新生児に対するマッサージの効果を調査し、個人的な観察を書き留めて1977年に『インファントマッサージ 愛情深い親のためのハンドブック』を出版しました。当時から青少年の凶悪犯罪など、さまざまな子供の問題に悩まされてきたアメリカでは、それまでの自分たちの育児法に問題があったことを認めはじめており、マッサージの効果を裏付けする研究結果も手伝って、インファントマッサージは加速度的に全米に広まりました。

そして1981年には国際インファントマッサージ協会(I.A.I.M.)が創設され、現在ではデンマーク、コペンハーゲンに国際本部事務局を構え、33か国の国々で活動する国際的組織となっています。その確かなテクニックはアメリカばかりではなく、ヨーロッパ各地に波及し、今では政府公認のプログラムとして活用されるまでに至っております。日本支部は1998年の10月のI.A.I.M.国際総会において承認され、設立されました。
インファントマッサージの方法

インド同様日本にも古来からおんぶや添い寝といった自然なかたちで親子が触れ合える伝統的な育児法がありました。それが今ではベビーカーやベビーベッドに取って代わられ、親子間の距離は以前と比べて遠のいています。人間形成においてスキンシップの重要性が叫ばれ、タッチセラピーの必要性が報じられてはいるものの、日本においては伝統的な育児法以外にまだ体系立ったものが確立されていないのが現状です。もちろん時間をかけて試行錯誤を繰り返しながら良い方法を模索しなければなりませんが、東洋のエッセンスを基に開発されたインファントマッサージなら、日本の皆様にも受け入れられ、明日の未来を担う子供たちの健やかな成長のために少しでも役立つのではないかと思っています。

実際に乳幼児にマッサージを施すのは、マッサージセラピストでもインファントマッサージのインストラクターでもありません。その子供の親です。
ヴィマラによって開発されたインファントマッサージは、親が子育てを学び、乳児が愛され尊ばれていることを自然に学ぶことのできる方法です。肌と肌でコミュニケーションを図ることは、幼い子供の愛情表現や社会的な発達のためには欠かせないもので、赤ちゃんも親も互いに楽しみながらコミュニケーションし、それに反応する能力を持っています。ヴィマラは「乳幼児のためのマッサージのテクニックは手先の問題だけではなく、むしろ穏やかで温かいコミュニケーションだ」と述べています。それは子供と親の楽しいかかわり合いのなかで親に子育てを教え、子供をリラックスさせるテクニックなのです。つまり、インファントマッサージの焦点は単に乳幼児だけに置かれているのではなく、乳幼児と親との相互作用に置かれているのです。

インファントマッサージのテクニックは、確実でやさしいタッチのマッサージですが、どんな場合でも始める前に乳幼児の意思を確かめます。まず、親はマッサージ用のオイルを手のひらにとって乳幼児の耳の近くで擦り合わせます。乳幼児がその音を聞いて気持ちのよい経験を連想できるようにするためです。そして乳幼児のしぐさから意思を確かめます。もし乳幼児がマッサージを望んでいなかったり、むずかって協力的でない場合は別の機会にすりょうにします。

インファントマッサージの基本技術には、さまざまな動きが含まれています。ゆっくりとリズミカルで、ほどよく刺激的な圧力があります。特別な場合を除いて、親が望んだ時からいつでもすぐに始められます。毎日、無香料のナチュラルオイルを使って、各部位を順にマッサージしていきます。這ったり歩いたり、子供の動きが活発になるにつれて週に1、2回になっても、子供の欲する部分だけでもかまいません。親が子供の合図を読み取り、適宜調整することが大切です。
インファントマッサージの効果

言葉の未発達な乳幼児は、笑ったり、腕や足を動かしたり、顔を背けたり、背中を弓なりに反らせるなど、身体でさまざまな意思表示を行います。親はインファントマッサージをすることによって、乳幼児の出す合図を解釈したり答えたりする方法を学びます。そして乳幼児と親の双方が互いに絆を深めていくのです。海外での実例を挙げますと、ある脳性麻痺の子供の母親がインファントマッサージを学んだ後に、次のように言いました。
「私の子は以前はお人形でした。でも、今は赤ちゃんです。彼には個性もあります。インファントマッサージのおかげで自分を表現する方法 ― くすくす笑ったり、対話し合うことができるようになりました。以前は対話なんてぜんぜんできなかったのに」

過去に行われた研究では、次のような結果が報告されています。

・1980年運動神経に障害のある乳幼児を母親がマッサージしたところ、子供に対する親の期待と行動が変化し、親子はより積極的なかかわり合いを持つようになった。
・1989年胃腸に問題のある新生児の口腔内を刺激したところ、胃腸食物吸収ホルモンの放出が増加した。
・1994年〜96年オレゴン州がダグラス郡では政府の出資によるインファントマッサージのプロジェクトが実施され、ダグラス郡で生まれた375人の乳幼児がマッサージを受けた。その結果、乳幼児虐待の確認件数がそれまでの104から15に減った。

インファントマッサージの効果として、具体的には次のようなことが挙げられます。

・刺激
皮膚感覚は最も早く発達する機能で、哺乳動物においては、自分の子供を舐めたり、撫でたりする、皮膚への親密な接触を持続させるとその結果、肉付きが良く、神経系の安定性や病気に対する抵抗力が増すということが動物研究でもわかっている。また1978年に内科医が皮膚に電極を当てて酸素圧力を計測することによって、人間の子供のストレスの度合いを測る技術を開発し、マッサージはストレスの増加をやわらげることがわかっている。

・リラクゼーション
一般に乳幼児はストレスを経験しないし、表現することもないと考えられているが、このことが乳幼児を緊張と不安による欲求不満の状態に陥らせる。マッサージは乳幼児をリラックスさせて、鬱積した緊張をほぐせるようにする。
・身体的不快感の除去
マッサージが消化管の状態を調整し、ガスや腸の働きを活発にするほか、神経系の発達や歯の生え始め、感情的ストレスなどによる不快の除去を促す。

・相互作用
著名な小児科医であるウィリアム・シアーズ博士が著書の中で、我が子に近づくことでいかにさまざまな問題が軽減され、子供との情緒的・精神的な絆を深めることができるかを綴っている。人と人は、人生のどの段階においても互いの絆を意識的に形成することができる。そしてインファント・マッサージは親子の愛情の絆をより強いものにするために有効な方法である。

インファントマッサージの効果をより深く知りたい方には、マイアミ医大研究員ティファニー・M・フィールド博士の研究書『初期発達におけるタッチ』をお読みになることをお勧めします。博士は健常児に限らず、未熟児、HIV感染児など、さまざまな状況にある子供に対するマッサージ効果を研究してきました。また、鬱状態の母親や喘息・自閉症・発達の遅れた子供たち、ストレス障害・過食症・糖尿病・リューマチ関節炎・精神医学的障害のある子供たちへの効果も研究しています。
博士の研究によれば、乳幼児を毎日15分間マッサージすることで、乳幼児は泣く回数が少なくなり、揺り動かしたときよりもマッサージしたあとのほうが早く眠りに就くという結果が出ました。6週間後には体重が増加し、尿中ストレスホルモンも減少したのです。

I.A.I.M.のインストラクター資格は、医療従事者や教育者など、有資格者の方だけが保持していることから、常に高いレベルを維持しており、日本の皆様にも安心して日々の育児に取り入れていただけると確信しています。現代のように時間の流れの速い世の中では、インファントマッサージが重要な役割を果たすものと思われますので、一日も早く日本の地に根付くことを願ってやみません。

日本インファントマッサージ協会
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